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【追悼】「ぎゅっと固い握手が今も蘇る」「無私で献身的に奉仕」 ジョセフ・カンラス氏の死に惜別の声 農地改革と環境保護に捧げた人生

最終更新: 5月29日


【写真】亡くなったジョセフ・カンラス氏


【23日=東京】フィリピンの農民組織「フィリピン農民運動(KMP)」副議長、KMP中部ルソン支部議長のジョセフ・カンラス氏(59)が、虚偽の武器不法所持の容疑で勾留中、新型コロナに感染し、2021年5月11日に死亡した。カンラス氏には糖尿病と高血圧の持病があった。感染すれば病状が悪化することは、いまや、誰もが知っている常識だったはずだ。人々から愛され、尊敬されたカンラス氏の死に日本からも惜む声が上がる。左派系比例代表政党バヤンムナ党党首で下院議員のカルロス・イサガニ・ザラテ氏は、カンラス氏の死を「Silent EJK (静かな超法規的殺害)」と呼んだ。

■農民運動を牽引


「多くの人びとから尊敬され、信頼され、慕われ、頼りにされ、屈強なジョセフさんが、あのような亡くなり方をするなんて信じられない、あまりに重い」


 カンラス氏と長年親交があった国際環境NGO FoE Japan 委託研究員の波多江秀枝さんはこう言い、声をつまらせた。


 波多江さんがカンラス氏と初めて出会ったのは2004年だった。


 ルソン島ターラック州の大規模サトウキビ農園「アシエンダ・ルイシタ(ルイシタ農園)」で、地主の土地の支配に抵抗する農業労働者らが虐殺された事件が起きた。その抗議集会にカンラス氏はいた。


 この虐殺事件は中部ルソンの農民にとって最大の闘争の場だったと言っていい。持ち主は大地主コファンコ一族。コラソン・アキノ元大統領はコファンコ家の出。アロヨ政権下の2004年、アシエンダ・ルイシタの労働者らは、農地分配を求めてストライキを実行したが、非暴力で農地分配を訴えていた7人の農民が虐殺された。


 労働者らへのそうした弾圧にもかかわらず、カンラス氏は労働者らとともにさらに大規模なキャンペーンをはった。それが功を奏し、2010年11月、裁判所が画期的な判決を出した。6453ヘクタールのアシエンダを、1万人の農場労働者に無条件で分配するよう言い渡されたのだ。

 波多江さんとカンラス氏は、同じ中部ルソンのパンガシナン州でのサンロケ多目的ダムの建設問題にも一緒に取り組んだ。


 このダムの建設は日本の官民が進めていた。フィリピンのルソン島北部を流れるアグノ川で、東南アジアで最大級の規模を誇る巨大ダムだった。ダム上流側で先住民族が伝統的な生活・文化を破壊されると強い反対の声をあげてきたが、ダム下流側でも農家が移転を強いられたり、農地を収用されたり、また砂金採りができなくなったりと数千人以上の生活に被害を及ぼした。


 このサンロケダムの闘争中にも、パンガシナン州の農民組織のリーダーが2006年5月16日に超法規的殺害の犠牲者となった。


 すでに中部ルソン地域のリーダーとして活動していたカンラス氏も命の危険に晒されていたに違いなかった。にもかかわらず、その後も15年間、陣頭に立って中部ルソンの農民運動を引っ張った。 


 波多江さんは「ジョセフさんの熱い思いをいつも感じていました。それは農民の問題に関する集会で皆を前に熱のこもったスピーチをするときだけでなく、会うたびに力強く、そしてぎゅっと固く握り返してくる彼の握手から。言葉を交わさずとも、彼の力強い握手から同じ思いを共有していること、一緒に闘う仲間なのだということをいつも感じていた」と話した。


■省庁の腐敗を目撃


 カンラス氏は1961年11月26日、中部ルソン地方パンパンガ州にある農民の家庭に生まれた。パンパンガ州にある農業大学を卒業後、環境天然資源省に就職。しかし、そこで腐敗を目の当たりにした。


 腐敗をただそうとしたが、事態を変えることができず退職した。


 退職後の1997年から、パンパンガ州の農民団体AMCのボランティアとして活動を始めた。それ以来、中部ルソンにおける農民や先住民族が抱える人権侵害や環境破壊の問題などさまざまな問題の解決に向け中心的な役割を担ってきた。


 サンロケ多目的ダムの建設問題のほか、米軍基地跡地の再開発や地熱発電プロジェクト、鉱物資源採掘などに伴って発生する人権侵害や立ち退き、環境破壊などについて抗議し、また、小農のための農地改革の実現を目指した。


 アロヨ政権の10年間(2001~2010年)に、人権団体カラパタンによれば、異論者1200人以上が殺害された。カンラス氏が先頭に立ってきたのはそんな政治状況の中でのことだった。


■「無私で献身的に奉仕した人生」


 カンラス氏が所属した農民組織KMPは13日、ホームページで声明を発表した。


「彼と出会った多くの人に長きにわたる悲しみを残すかもしれない。でも、無私で献身的に人びとに奉仕した彼の人生は、多くの人にありあまる影響を与えることだろう」。


 ドゥテルテ政権下での超法規的殺害は3万人を超え、カンラス氏のような人権アクティビストや農民を狙った殺害は、わかっているだけで300人を超えている。



〈Source〉

A death heavier than Mount Arayat, May 13, 2021, KMP.

The post at Facebook of KMP, May 13, 2021.

The post at Gawad Bayani ng Kalikasan, May 11, 2021.

Jailed farmer leader dies of COVID-19 in Angeles City; Bayan Muna blames gov’t, May 11, 2021, Inquirer.

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